
AIブラウザに受発注画面を操作させたら、同じ発注が二度入りました — 従業員35名の卸売業が下期の自動化を止めずに引いた、専用ID・操作範囲・人の承認・ログの4本の線
この記事の事例は、実際にいただくご相談をもとにした想定ケースです。特定の企業を指すものではありません。
従業員35名の食品卸で、取引先のWeb発注ポータルへの入力をAIブラウザに任せ始めた矢先のことです。送信ボタンを押したあと画面が20秒ほど白いままになり、AIは「反応がない」と判断してもう一度押しました。同じ発注が二件、相手先の受注一覧に並びました。翌朝の出荷準備に入る前に取引先から電話が入り、事なきを得ています。
このとき社内で出た意見は「AIブラウザは当面禁止」でした。ただ、止める範囲を決めないまま禁止すると、在庫照会まで手作業に戻ります。判断軸を先に置いた方が、下期の自動化を残せます。
判断の起点は「AIの精度」ではなく「押した操作が戻せるか」です
二度目の送信は、内容を読み違えた結果ではありません。応答の遅い画面に対する再試行です。つまりモデルが賢くなっても同じことが起きます。ここを「AIの精度の問題」と整理してしまうと、次の対策が「もっと良いAIを探す」になり、何も変わりません。
分けるべきは、操作を間違えたときに取り消せるかどうかです。取り消しが自社の画面内で完結する操作と、相手先に電話をかけて頭を下げる操作は、同じ「入力作業」でも扱いが違います。
| 画面でやらせる操作 | 間違えたときに取り消す手間 | 下期の判断 |
|---|---|---|
| 在庫・単価・納期の照会 | 画面を閉じるだけで済む手間 | 専用IDで全自動にする判断 |
| 発注内容の下書き作成 | 下書きを削除するだけの手間 | 専用IDで全自動にする判断 |
| 発注の確定・送信 | 相手先に連絡して取り消す手間 | 人が最後のボタンを押す判断 |
| 数量・納期の変更依頼 | 相手先の出荷準備をやり直させる手間 | 人が最後のボタンを押す判断 |
| 支払条件・与信枠の申請 | 契約の合意をやり直す手間 | AIには触らせない判断 |
どの業務を任せるかという手前の線引きは、AIエージェントに任せていい業務、まだ人がやるべき業務でも整理しています。
専用IDを用意するか、担当者のIDを使わせるか
二重発注の翌日、担当者が最初に困ったのは「どちらの送信を自分が押したのか、記録から分からない」という点でした。AIブラウザは担当者のログイン状態をそのまま使っていたためです。
| IDの持たせ方 | ログで人とAIを見分けられるか | この方式を選ぶ場合 |
|---|---|---|
| 担当者のIDをAIに使わせる方式 | 見分けられません | どの条件でも選ばない場合 |
| 自社の基幹システムに専用アカウントを作る方式 | 自社側の操作は見分けられます | 操作対象が自社システムに閉じる場合 |
| 取引先ポータルに追加IDを申請する方式 | 取引先のログでも見分けられます | 取引先が複数ID発行に応じる場合 |
| 人がログインし、AIには読み取りだけさせる方式 | 送信はすべて人の記録として残ります | 追加IDが発行されない場合 |
多くの取引先ポータルは、利用規約でIDの共有や第三者への貸与を禁じています。AIブラウザが規約上の「第三者」に当たるかは書かれていないことが多いため、追加ID発行の可否とあわせて、先方の担当者に確認しておくのが確実です。権限の持たせ方そのものを点検した例は、共有フォルダの権限棚卸しにまとめています。
承認は「送信の直前」に一回だけ置きます
承認を下書き確定時と送信直前の二か所に置いた会社は、二週間で両方とも素通しになりました。回数が増えると中身を見なくなります。置くなら、取り消せなくなる一歩手前の一回です。
そのうえで、AIブラウザへの指示自体に「押さない」を書き込みます。
あなたは受発注ポータルの画面を操作します。次の制約を必ず守ってください。
【やること】
- 指定した取引先の商品ページから、在庫・単価・最短納期を読み取る
- カートに商品コードと数量を入力し、「下書き保存」まで進める
【やらないこと】
- 「注文を確定する」「送信」のボタンは押さない
- 画面が反応しないときも、同じボタンを押し直さない。操作を止めて、
最後に押したボタン名と時刻を報告する
- 支払条件・届け先・与信に関する項目は変更しない
【報告すること】
下書き番号 / 商品コード / 数量 / 単価 / 合計金額 / 最短納期 / 前回発注との差分
金額の大きさで承認者を変える会社もあります。1回20万円未満は担当者、それ以上と前回比1.5倍を超える数量は課長、という形です。閾値は貴社の一件あたり平均発注額から決めてください。
証拠は、AIの画面ログではなく自社の台帳に残します
AIブラウザの操作履歴は、製品によって保存期間が異なり、管理者がまとめて書き出せない場合もあります。「AIが何をしたか」を後から示す必要があるのは、取引先とのやり取りが食い違ったときです。そのときに開くのは、自社側に残した発注台帳です。
発注番号、送信時刻、操作した主体(専用IDか担当者か)、承認者の四つを一行に残せば足ります。週に一度、重複の兆候だけ見ておきます。
添付は当社の発注台帳(CSV)です。同一取引先・同一商品コードで、
発注日時が30分以内に並んでいる行を抽出してください。
出力は「取引先 / 商品コード / 発注番号2件 / 発注日時の差 / 数量」の表とし、
数量が前回発注の1.5倍を超える行には印を付けてください。
判断が付かない行は、推測せず「要確認」と書いてください。
取引先ごとに、続ける先と止める先が分かれます
四本の線が引けるかどうかは、取引先の環境で決まります。追加IDが出てCSV取込にも対応している先は、下期もそのまま自動化を続けられます。ID共有を禁じたまま追加発行に応じない先は、読み取りと下書きまでに範囲を狭めて続けます。EDIで発注データを直接連携できる先は、そもそも画面操作をやめる方が事故が減ります。全社一律に止める判断は、この三つを混ぜてしまうだけです。
えらびの道では、生成AIの業務活用について半日の単発研修と標準コースの「研修」、実業務に伴走して定着させる「コーチング」の2軸で支援しています。今回のようなテーマでは、任せる操作と任せない操作の線引き表を貴社の取引先一覧に合わせて作るところ、AIブラウザへの指示文を貴社の発注画面に合わせて書き直すところ、発注台帳の項目と週次の点検手順を決めるところをご一緒します。人材開発支援助成金や自治体の人材育成補助の活用にも対応しており、制度の全体像はAI研修に使える助成金・補助金まとめにまとめています。
受発注画面に線を引くところまで、えらびの道でお手伝いできること
合同会社えらびの道は、大分県の中小企業に向けて生成AIの業務活用研修を行っています。ただ研修専門の会社ではなく、普段はシステムの受託開発と自社サービスの運用が本業で、生成AIはその現場で毎日使っている道具のひとつです。画面を操作させる話も、机上の知識ではなく実際に使って分かったことをお伝えしています。
研修では、貴社が実際に使っている書類や画面をそのまま題材にします。この記事で扱った受発注ポータルの操作でいえば、取引先一覧を開いて、どの操作を専用IDで自動化し、どこで人がボタンを押すかの線引き表を作ります。AIブラウザへの指示文も、貴社の発注画面の文言に合わせて書き直します。汎用的な例ではなく、翌日から使える形で持ち帰っていただきます。
事前のヒアリングに伺うのも当日に研修を行うのも同じ人間(代表の喜多)ですので、伺った取引先ごとの事情がそのまま当日の題材になります。大分市の人材育成応援事業などの補助金を使う場合は、申請書類の作成もお手伝いします。
発注台帳に何を残すか決めるところから始めたい、という段階でも構いません。えらびの道では、オンラインで30分のご相談をお受けしています。費用はかかりませんので、お気軽にお声がけください。
よくある質問
AIブラウザに受発注システムを操作させても大丈夫ですか?
照会や下書きの作成までであれば、間違えても自社内で取り消せるため実用的です。危ないのは確定・送信のように相手先に届く操作で、ここは人がボタンを押す形にしてください。操作の種類ごとに分けることが前提になります。
二重発注を防ぐには、どんな設定が必要ですか?
AIへの指示に「反応がなくても同じボタンを押し直さない」と明記し、送信だけを人の手に残すのが最も確実です。あわせて発注台帳で同一商品の短時間の重複を週次で確認すれば、設定漏れがあっても翌週には気づけます。
取引先のポータルにAI用のIDを追加してもらえますか?
発行の可否は取引先ごとに異なり、規約でID共有を禁じている先も少なくありません。追加が難しい場合は、人がログインしてAIには画面の読み取りと下書きだけを任せる形に切り替えると、送信の記録は人のものとして残ります。
この記事は、生成AIで下書きを作成し、実務経験にもとづいて内容を確認・編集したうえで公開しています。制度・金額・要件は年度や状況によって変わるため、実際のご判断の前に公式の窓口でご確認ください。
あわせて読みたい
AIに書かせた商品説明に「業界No.1」と「最安」が入っていました — 年末商戦の販促物を出す前に、景品表示法で中小企業が足を取られる4つの表現と根拠資料の残し方
AIが生成した商品説明に紛れ込む「業界No.1」「最安」「通常価格」「98%が実感」。年末商戦の販促物を出す前に、そのまま出せる表現と落とす表現を、景品表示法の根拠資料があるかで振り分ける判断表をまとめました。
サイトのAIチャットが答えた納期で客先が発注しました — 下期のWeb予算でAI窓口を公開する前に決める、免責表示・回答範囲・引き継ぎ・更新の4本の線
試験公開中のAIチャットが古い資料の納期を答え、客先がその画面で発注した想定ケースです。免責表示の置き場所、答えさせない質問、有人への引き継ぎ条件、回答の出どころの更新まで、公開前に決める4本の線を整理します。
AIエージェントに任せていい業務、まだ人がやるべき業務 — 41人の部品商社が下期に引いた5本の線
見積の自動送信で7万8千円の損失を出した部品商社が、業務単位ではなく「間違いの出方」で任せる範囲を引き直した実例。5つの判断基準と下期の運用を紹介します。


