
ChatGPTに作らせたExcelマクロを、作った本人が異動した — 従業員28名の建材卸が上期末の集計前に決めたAI製ツールの保守ルール
この記事の事例は、実際にいただくご相談をもとにした想定ケースです。特定の企業を指すものではありません。
大分県内の建材卸(従業員28名)で、7月末にこんなことが起きました。
営業事務の担当者が4月に総務へ異動したあと、その人がChatGPTに書かせたExcelマクロが動かなくなった。得意先別の売上を月次で集計して、支払条件ごとに並べ替えるマクロです。エラーメッセージは「実行時エラー’1004’: アプリケーション定義またはオブジェクト定義のエラーです」。異動した本人に聞いても「ChatGPTに作ってもらっただけなので、中身は分かりません」。
9月末には上期の締めがあります。手作業に戻すと2日かかる。この会社が8月に入って決めたことを、失敗の側から書きます。
「作った人に聞けば分かる」が最初から成り立っていなかった
普通の属人化なら、作った本人は中身を理解しています。エクセルに詳しい社員が組んだマクロなら、異動しても電話1本で聞ける。
ところがAIに書かせたツールは違います。作った本人が中身を知らない。プロンプトを投げて、出てきたコードを貼り付けて、動いたから使い続けた。それだけです。この会社の担当者は「10回くらいやり取りして直してもらった」と言っていましたが、そのやり取りの履歴も残っていませんでした。
つまり、引き継ぎの相手が最初からいない状態です。「あの人がいないと回らない」ではなく「誰も分からないまま回っていた」。属人業務の標準化を考えるとき、AI製ツールはこの一段深いところにいます。
防ぐには、コードそのものより先に作った意図を残すことです。この会社は棚卸しのときに、こう聞くようにしました。
このVBAコードを読んで、次の3つを日本語で説明してください。
1. このマクロが何をするか(3行以内)
2. 前提にしているExcelの構造
(シート名、列の位置、データの開始行、必須の書式)
3. 前提が崩れたときに起きるエラーと、その直し方
専門用語は使わず、Excelを触れる事務職が読んで分かる言葉で書いてください。
--- コード ---
(ここに貼り付け)
出てきた説明を、マクロと同じフォルダにテキストで置く。これだけで、次に壊れたとき別の人が着手できます。
壊れた原因はコードではなく、シート名の変更だった
先ほどのエラーの原因は、4月に基幹システムを更新したときに、出力されるCSVのシート名が「Sheet1」から「売上明細」に変わっていたことでした。コードには「Sheet1」が直接書き込まれていた。
AIが書くコードは、そのとき見せたデータの形に合わせて作られます。列の位置、シート名、日付の書式。人が書くコードなら「たぶん変わるだろうから」と余裕を持たせることがありますが、AIは指示がなければ目の前の形に最適化します。
だから壊れるきっかけは、たいていコードの外側にあります。
| 壊れるきっかけ | 実際に起きたこと | 気づくタイミング |
|---|---|---|
| 基幹システムの更新 | シート名がSheet1→売上明細 | 次に実行したとき |
| 取引先の追加 | 行数が想定を超えて範囲外を参照 | 集計値が合わない(気づきにくい) |
| Excelのバージョン更新 | 一部の関数の挙動が変わる | 数か月後にたまたま |
| 元ファイルの列追加 | 集計する列が1つずれる | 誰かが数字を疑うまで |
厄介なのは2番目と4番目です。エラーで止まらず、間違った数字が静かに出てくる。この会社では「マクロを実行したあと、必ず合計値を前月と見比べる」という一行を手順書に足しました。
「動いているから触らない」で1年半放置していた
このマクロは2025年の1月から使われていました。1年半、誰も中身を見ていません。
無理もない話で、動いているものを触る理由がない。ただ、AI製ツールは作った直後がいちばん壊れにくく、時間が経つほど周囲の環境とずれていきます。放置期間が長いほど、壊れたときに「いつからずれていたのか」が分からなくなる。
この会社が決めたのは、上期末と下期末の年2回、決算業務の前に動作確認をするというルールです。全部を点検するのではなく、対象を絞りました。
- 数字を扱うもの(集計、金額計算、在庫)だけ
- 実行前に、前期の元データで1回動かして結果を照合する
- 結果が合わなければ、その場でAIに直させず、まず何が変わったかを人が調べる
3つ目が肝心です。エラーメッセージだけをAIに投げると、それらしく動くコードが返ってきます。ただ、原因を特定しないまま直したコードは、次のずれで同じことを繰り返します。
台帳を作らないまま「うちには他にもある」で終わらせた
この会社の総務が8月の第1週にやったのは、社内アンケートでした。「ChatGPTなどのAIに作らせたマクロ・関数・スクリプトを使っている人は申告してください」。
出てきたのは9件。うち5件は総務も把握していませんでした。運送費の按分計算、在庫の発注点アラート、請求書の突合チェック。どれも個人のPCの中にありました。
見つけただけでは終わりません。台帳に落として、担当を割り当てるところまでやらないと、また同じことが起きます。この会社が作った台帳の項目は6つでした。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| ツール名・保存場所 | 得意先別売上集計マクロ/共有サーバー・経理フォルダ |
| 何をするものか | 月次CSVを支払条件別に並べ替えて集計 |
| 作った人・時期 | 前・営業事務/2025年1月 |
| 今の担当者 | 経理・○○ |
| 止まったときの代替手段 | 手作業で2日(担当2名) |
| 最終確認日 | 2026年8月4日 |
「止まったときの代替手段」を必ず書かせたのが効きました。これを書くと、そのツールが止まったときの実害が見えます。2日かかるものと、30分で済むものでは、点検の優先度が違う。
シャドーAIの棚卸しと同じ発想ですが、こちらは利用ログではなくファイルを探す作業です。アンケートのほうが早く済みます。
「新しく作るときのルール」を後回しにした
台帳を作った時点で満足して、新規作成のルールを決めないまま終わる会社が多いのですが、この会社は8月中に3つだけ決めました。
1. 数字を扱うツールは、1人で作らない。 作る人と、結果を確認する人を分ける。確認する人はコードを読まなくていい。元データと突き合わせて数字が合うかだけ見る。
2. 作ったら、その日のうちに説明文を残す。 上のプロンプトで出させた説明をテキストにして、ツールと同じ場所に置く。3日経つと本人も忘れます。
3. 個人PCに置かない。 共有フォルダに置く。異動や退職で物理的にアクセスできなくなるのを防ぐためです。
3つとも当たり前に見えますが、決めていないと守られません。この会社は既存のAI利用ガイドラインに1ページ足す形で追記しました。新しい文書を作らなかったのは、読まれないと分かっていたからだそうです。
えらびの道では、生成AIの業務活用について研修とコーチングの2軸で支援しています。研修は半日の単発から標準コースまで対応し、コーチングでは実際の業務に伴走しながら定着まで見ます。今回のようなAI製ツールの棚卸しでは、社内にどんなツールが散らばっているかの洗い出し、台帳の項目設計、点検時のプロンプト整備、既存ガイドラインへの追記案の作成をお手伝いできます。人材開発支援助成金や自治体の補助金の活用にも対応しています。
AI製ツールの保守ルールづくりまで、えらびの道でお手伝いできること
合同会社えらびの道は、大分県の中小企業に向けて、生成AIの業務活用研修を行っています。ただ、研修だけを専門にしている会社ではありません。普段はシステムの受託開発と自社サービスの運用をしていて、生成AIも、コードを書いたり直したりする現場で毎日使っている道具のひとつです。
研修では、汎用的な例題ではなく、貴社で実際に動いているファイルをそのまま題材にします。今回の記事で扱ったような、得意先別の売上集計マクロの棚卸し、AIに書かせたコードの意図を日本語で残すプロンプト、決算前の動作確認の手順書。それらを貴社の書類やデータの形に合わせてその場で作り、翌日から使える形で持ち帰っていただきます。
事前のヒアリングに伺うのも、研修当日に立つのも、代表の喜多が同じように担当します。貴社のどのツールが誰の手を離れているのか、どこで壊れやすいのかを先に伺ったうえで内容を組み立てるので、当日の話が自社の話として進みます。
「うちにも中身の分からないマクロがあるかもしれない」という段階でも構いません。えらびの道では、オンラインで30分ほど、費用のかからないご相談をお受けしています。
よくある質問
AIに作らせたマクロは、社内で使い続けても問題ありませんか?
使い続けること自体は問題ありません。ただし数字を扱うものは、元データの形が変わると静かに間違った値を出すことがあります。保存場所と用途を台帳にまとめ、決算前など節目のタイミングで前期データを使った動作確認をする運用にしておくと安全です。
コードが読めない社員しかいない場合、どう保守すればいいですか?
コードを読めるようになる必要はありません。AIにコードを渡して「何をするか」「何を前提にしているか」を日本語で説明させ、それをツールと同じ場所に保存しておきます。壊れたときは、その前提のどれが崩れたかを人が調べてから修正を依頼する流れにします。
社内にどれだけAI製ツールがあるか分かりません。どう調べますか?
利用ログを追うより、社内アンケートで申告してもらうほうが早く済みます。「AIに作らせたマクロ・関数・スクリプトを使っている人」と具体的に聞くのがコツです。従業員28名の会社で9件見つかり、うち5件は総務が把握していないものでした。
この記事は、生成AIで下書きを作成し、実務経験にもとづいて内容を確認・編集したうえで公開しています。制度・金額・要件は年度や状況によって変わるため、実際のご判断の前に公式の窓口でご確認ください。
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